(1)からの続き

質問:Ebatesはスマートフォンなどモバイルでの利用が増えているようです。そうした中
で、モバイルを活用したイーコマースはこれからどのように進化していくと考えています
か。

三木谷:モバイルでは、どこのお店でも同じインターフェースで買える、ということが重
要になってくると思います。パソコンの場合には、ショップごとにデザインが違っていて
もいい、と思いますが。モバイルになってくると画面サイズが限られているので、チェッ
クアウトのプロセスなどは共通化しているほうが圧倒的にいい。

 たとえば、Ebatesには、セフォラ、ベストバイなどたくさんの有名なお店が入っている
。だったら楽天の会員はEbatesから入って買い物をすればいいわけです。これこそが会員
ビジネス、つまりメンバーシップビジネスですよね。GoogleAmazonにどうやったら勝て
るか、勝てないまでもそれなりに今後も成長していけるか、と考えた時に、うちは会員ビ
ジネスに、しっかりポジショニングしていくべき、と思っています。

 これまでの会員ビジネスはクローズドだった。そこを変えて、人を呼びこんで来るトラ
ンザクションの部分はどんどんオープンにしていく。そこが今回の大きなポイントなんで
す。

質問:オープン化ということでは、楽天スーパーポイントも今、リアルな店舗にも拡げて
いこうとしている。日本のポイントとEbatesのキャッシュバックは似ていますよね。

三木谷:似ています。ただ、アメリカの皆さんはやっぱりキャッシュバックが好きらしい
んですね。ペーパー製の大きなクーポンをみて、「紙を出力するコストが高いのではない
か」と思ったんですが、実はびっくりするくらい安いんです。だから、成り立つ。しかも
アメリカでは、ペーパーのクーポンをペタペタと冷蔵庫に貼るのが好きな人が多いような
んです。

 だから全部ポイントに切り替えるのは現実的ではない。そこで、希望すれば楽天スーパ
ーポイントにもできますよ、という具合に始めればいいと思う。スーパーポイントは次の
ショッピングの時にバーンと使えるよ、と。そういう形にしてあげると、何十%の人はそ
っちに行くかもしれない。これはやってみないと分からない。今や、自分の先入観にとら
われて、打ち手を決める時代は終わったという風にも思っているんですよね。

質問:やってみて、データをチェックすれば、おのずと次の打ち手も決まってくる、と。
それを素早く回していくことが重要なわけですね。

三木谷:データとコンシューマーの行動を見ながら、それに合わせた戦略を考えていく。
品揃えとサービスのラインナップを揃えた上で、あとはデータでもって判断する時代に、
完全に入ったと思います。

質問:Ebatesのケビン・ジョンソンCEOはIPOをしようと考えていた。それを聞いた三木谷
さんが、「いやIPOをするぐらいだったら組んだほうがいいんじゃないの?」と誘ったわけ
ですよね。

三木谷:Ebatesとはこれまでも取引があった。ケビンも私も、同じようなことをずっと考
えてきたんです。アメリカでどうやってやればいいかな、といろいろ考えていた時に、た
しか風呂に入ってる時に思いついた(笑)。そうだ、一緒になってしまえばいい、と。そ
れでケビンに打診をしたら、いや実はもうIPOの準備に入っているという話だった。
三木谷:でも彼らは考えたんだと思います。IPOをしてスタンドアローンでやっていく場合
、国際展開はどうするんだ、とか。それはそれで大変なことなので、だったら楽天と組ん
だほうがいいと判断したんだと思います。

 しかもIPOをしても、売るほうの株主は、すぐに全ての株式を売ってキャッシュ化できる
わけではない。着実に売却してしまうのであれば、全株式を一気に売った方がいい。それ
だけでなく、楽天はEbatesのモデルや、顧客へのサービスを非常に深く理解しているので
、責任を持った対応をしてくれるであろうと考えたのではないかな、と思います。

質問:ケビンCEOはアリババの話もしていた。アリババのIPOを前に、IPOが難しいという雰
囲気はあるのでしょうか。

三木谷:それは分からないですね。

質問:アリババは最大で2.5兆円を調達する。この調達規模は非常に大きいですよね。
このインパクトは相当あるでしょうね。

三木谷:真面目な話、それはちょっと分からないです。

山田:アリババがどういう競争を仕掛けてくるのか、気になりませんか。

三木谷:確かに、中国の競争は中国の競争で大変だと思いますよ、テンセントも伸びてい
ますし、アリババも大変だろうな、と思います。ただ、私の耳に競合の状況についての情
報が入るにしても、だったらこうしよう、という対策を打てるわけではない。やっぱり自
分たちが考えているオリジナルなモデルを追求していくことによって、着実に成長してい
くしかないんです。

 もしかしたらアリババがすごく大きくなるかもしれないけども、それは私にどうするこ
ともできないので、どうすることもできないことを考えても仕方がないんですよね。

 競争関係はいろいろ変わっていきますが、ご存じのように楽天は今まで常に新しい展開
をしてきたじゃないですか。単純なイーコマースから複合的エコシステムへ進化しました
し、野球への参入もそうですけれども。、新しいことを次々にやってきた。海外展開にお
いても今回のEbates買収、Viber買収に関しても、他社が取らなかった手を取ってきている
と思うんですね。もともと僕の性格もそうですし、他社の真似をするのではなく、自分が
こういう風になっていくであろうな、という将来ビジョンに沿ってやっていく。そしてデ
ータに基づいた打ち手を着実に打っていくというスマートな戦略をこれからも展開してい
きます。

質問:ケビンさんは、熱い志を共有できる経営者なわけですよね?

三木谷:ケビンも、スコット(・ブラディ・Slice Technologies CEO)も、インテリジェ
ントなプロ。彼らが楽天USAのマネージメントに入ってきますから、これは大きいですよ。


 *この続編は近日中に配信する予定です。

(山田 俊浩)

(百万円)    売上高  営業利益 経常利益  純利益 1株益¥ 1株配¥
◇本2013.12  518,568 90,244 88,610 42,900 32.6 4記
◇本2014.12予 560,000 100,000 99,000 59,000 44.7 4-5 
◇本2015.12予 610,000 110,000 109,000 65,000 49.2 5-6 
◇中2014.06  276,602 44,776 43,742 23,086 17.5 0 
◇中2015.06予 290,000 50,000 50,000 30,000 22.7 0 


(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部